2011年、日本の有名医療機器メーカーであるオリンパスによる巨額の損失隠しが明らかになった。日本の専門家は事件を知りつつも、それをケーススタディの題材としたり、多くのMBAプログラムのケーススタディで見られるような事例とし、そこから何かを学ぼうとする者はほとんどいない。2014年10月、事件の関係者であるイギリスのマイケル・ウッドフォード氏は、事件に関する2つの講演会のために来日した。彼は、事件と自身の関係を書いた自著を会場に持参し、妻と二人で販売した。

講演を聴くため、日本、ヨーロッパ、アメリカの各企業を代表するCEOのグループから、日本を拠点とする5人の国際的な最高経営幹部たちが参加した。彼らは、デンマーク、イギリス、アメリカ出身で、ウッドフォード氏の経験談を聴きに来た。日本経験は、2年から20年まで様々だ。ウッドフォード氏が事細かに語ったのは、日本の新幹線に乗ったこと、日本人はどのようにクッキーをお盆に並べるか、名刺入れの大切さ、友人と入った日本の「温泉」の風呂桶の大きさ、それから東京都新宿区にある自宅の屋上について。イベントの感想として異口同音に聞かれたのは、講演としての内容に乏しいというものだった。

400人規模の日本企業を経営する参加者は、講演の感想を次のように述べた。「映画『ロスト・イン・トランスレーション』を観ているようだった」。他にも、最近日本企業のCEOに就任したという参加者は「彼の日本の知識は、オリンパス時代に本当に表面的なものしか得られていない」と話した。「まるで大作映画 (この場合は本だが) の予告編を観ているかのようだった。一つ違うのは、普通なら、予告編を観るのにお金はかからない」

結論として、ウッドフォード氏は、日本文化や企業経営について、彼が今まで働いてきた国での見識以上のものを持っておらず、それゆえ、不祥事に善処し、解決することができなかったのだろう。東京の講演会で、ウッドフォード氏は次のように質問された。「オリンパスの社長を解任されてから、何か日本で良くなったことはありますか?」。ウッドフォード氏の答えは「何も変わっていない」だった。

この答えから受ける印象は、日本で講演したのは、本音を言えば、企業を良くしたいからではなく、単に自分が有名になりたいからというもの。自著の告白本を売り込もうという意欲さえ感じられる。実際には、大きく変わったことがある。外国人CEOへの姿勢、コーポレート・ガバナンスの重要性、そしていつか会社が独り立ちしていくことを見据えた起業家の役割だ。

ウッドフォード氏の著書は、同氏が目にしたものをよく描写した力作だ。同書名は「Exposed (暴露された、公開された)」だが、講演会での日本文化の知識や、現役の日本企業経営者 (一歩先の景色を見ている人々) に与えた印象からすれば、書名は「Under developed (開発中)」とでもしたほうがいいかもしれない。興味深いのは、東京での講演会 (著書のツアー?) に参加した大勢の参加者の中に、日本のビジネスマンがいなかったことだ。

オリンパス事件は、コーポレート・ガバナンスの欠落を露呈する最悪のモラル違反だった。しかしながら、結果として明らかになったこともある。一緒に働く人のこと、その人たちの言葉、考え方、働き方を理解することは、真にビジネスで成功するために欠かせないことであり、それはどの国でも変わらない真実だということである。